別れさせ屋アクアグローバルサポートは料金とご契約期間と実働回数を明確にした独自のプランで、依頼者様のご期待に結果でお応えいたします

【エピソード2】2話 夫妻の仔細 | 別れさせ屋の老舗アクアグローバルサポート

【エピソード2】2話 夫妻の仔細

2023-04-17

目の前にそびえ立つのは大豪邸である。すこし古いが、大豪邸である。ああ、これは名家なんですね、とひと目でわかる。
「大橋、ズボン、すこしシワになってるぞ」と社長が言った。
たしかに、私の一張羅のズボンは若干シワになっている。
「すいません……」と私は答える。

社長はじつに綺麗にネクタイを結び、じつにぴっしりと整ったスーツを着ている。
春子さん曰く、「スーツは自分でアイロンかけないと気が済まないらしいのよ」。

インターフォンを押すと中へ入るよう促されたので、門をくぐり、戸を開ける。
「ごめんください、飯田橋駅前探偵所です」と社長がよく通る声で言った。
「どうも、よくお越しくださいました」といかにも品が良さそうな婦人が現れる。

今回の依頼者、佐賀夫人である。

客間に通されると、ソファにどっと座っている旦那さんがようこそ、と立ち上がる。
私の緊張はなかなかのものである。前回、室田さんのときは事務所だったから、こちらがホームだったが、今回は完全にアウェイである。かつ、この大豪邸である。そもそも大豪邸に住んでいる友だちもいなければ、実家とてただのマンションであるから、大豪邸とは外から眺めるものであって、そこに自分が入るものではないのである。

「今日はお手伝いさんに休んでもらったので、あまりうまく淹れられなかったんですが」と前置きして、夫人がお茶を持ってきてくれた。
私はお手伝いさん、お手伝いさんって、と2度脳内で繰り返した。ああ、実際にお手伝いさんがいる家庭もあるのである。じつに世間にはいろいろな家庭がある。

「娘がね、ふたりいるんです」と佐賀さんは言った。「今回頼みたいのは妹の方なんです」
「もうどちらも実家は出ていらっしゃる?」と社長が訊いた。

私とはちがい、まるで雰囲気に緊張している様子もない。さらり、としゃべる。
「ええ。姉の方はね、もう嫁に行ってまして、旦那もそこそこきちんとした人間なんですが、妹がいま付き合っている男というのが、絵に描いたようなダメ男でして……。いや、お恥ずかしい」
「なるほど、それで別れさせたい、と」
「私としてはね、妹の方は婿をもらって、佐賀家を継いで欲しいと思ってるんですよ」

さらりと「家を継ぐ」という単語が出てくるあたりが、ちがう世界の話である。しかし、世界はちがっても、依頼者の希望は変わらない。我々はその希望を叶えるために動くのである、と社長っぽく言っておこう。

「じゃあ、いまお付き合いされている男性は論外、ということですか」
「いちおう職にはついてるらしいんですが、なにをやっているのかさっぱりわかりません。自営業のような、雇われのような、よくわからない説明をしてました。アクセサリーがどうの、アパレルがどうの、とごちゃごちゃ言っていましたが」
「こちらに来られたことがあるんですか?」
「ええ。1度だけ。耳にね、じゃらじゃらともう何個も飾りをつけて、髪も真っ黄色。ふつう、相手方の実家にあいさつに来るときは、もっとまともな格好をするもんじゃないか、ってついつい私もその場で叱りつけてしまったくらいです」

ちなみにのちにわかることであるが、男は服とアクセサリーのセレクトショップの雇われ店長をしていて、いずれ独立するつもりのようだった。ピアスは数えたところ、12個ついているそうだ。
それから、小一時間、先方の知っていること、対象の娘についての情報などを細かに聞き出した。私はそれを必死にメモするだけで、時間はすぎていった。

どれが必要で、どれが必要ない情報か、などまだ私に判断できるはずもなく、となればすべてを記録する以外には方法はないわけである。
私の集中力が限界に近づいたころ、話は終わった。

「お聞きしたところ、飛び切り難しいというわけではありません。ふたりとも働いているようですし、工作は可能でしょう」と社長は断言した。
「そうですか、ぜひお願いします」と佐賀さんは若干、明るい声色で言った。
「ただし」と社長は一呼吸おいた。

「工作自体は可能ですが、佐賀さん。娘さんが婿をとることや、家を継ぐことに賛同するかは、また別の話ですよ。いまの男とはおそらく別れるでしょうが、その後、お望み通りの未来になるかどうかは、佐賀さんと娘さんでちゃんと話し合われる必要があるかと思います」
あまりにぴしゃりと社長が言うので、
「わかっています」と佐賀さんも言わざるを得なかったようである。
「あと、こういう問題は途中でこじらせたりすると、大変な手間がかかりますからある程度の我慢と寛容さが必要です」
「そうですね。別に男が悪いだけで、娘自体は悪いわけではありませんから、そこはだいじょうぶだと思います」と佐賀さんは言った。
「それであれば結構です。次回からは、この大橋ともうひとりベテランの社員が担当として伺いますので、なにかあれば、遠慮なく言ってやってください」
「よろしくお願いします」と私はぺこりと頭を下げる。
「よろしく頼みます」と佐賀さんもかすかに頭を傾けた。

佐賀家を出て、駅に向かう途中で、社長がぼそりと言った。
「本当に娘に対してある程度我慢してやれれば、その後もうまくいくんだけどね。そこだけが問題かな」
「どういうことです?」
「意外と人間は偏狭だってことだよ。許容できる範囲なんて、さして広くはない」
「意外と工作の外でモメるかも、ってことですか?」
「まあ、そうならないように、おまえや楓はうまくフォローしていくのが仕事なんだけど。ただ、言ってあげれば、気をつけはするだろうが、それを本当に実行できるかどうかは完全に依頼者さん本人によるところだからね」
「話が見えないです、すいません」
「謝ることはない。まあ、そのうちわかってくるだろう。案外、さらっと丸く収まるかもしれんし。ただ、ちょっと佐賀さんのあの様子は不安だというだけの話だ」
のち、この社長の不安な予想は残念ながら的中してしまう。

【エピソード2】3話 娘とカレシ。

ご相談はこちらまでお気軽に!

お気軽にお問い合わせ下さい。


LINE相談

メールフォーム

~この記事の著者~

男性調査スタッフ T

CATEGORY
上に戻る