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【エピソード2】9話 カタブツ名家の束縛ムスメ【終】 | 別れさせ屋の老舗アクアグローバルサポート

【エピソード2】9話 カタブツ名家の束縛ムスメ【終】

2023-04-17

私は事務所のベランダで持田さんとタバコを吸っていた。楓さんは別件で今日は事務所にいない。
私はほぼ終わった佐賀さんの件を含めて3件しか担当していないが、楓さんはもう何件担当しているのか、ちょっと把握できないくらいの数を担当している。多少は別れさせ屋の仕事にも慣れてきたが、楓さんを見ているとまだまだ私には別れさせ屋として昇るべきステップは多いと実感する。

「それじゃあ、来週の日曜、北島さんのところに行くから、準備しといて」と持田さんは言った。
「了解です」と私は答える。「ちなみになんですが、佐賀さんの件って、もうできることないんですかね?」
「牢屋の子だっけ?」
牢屋にいるから、は飯田橋探偵事務所内で、やや流行語になりつつある。
「そうです」
「ない、だろうな。仮にまたモトサヤになったりしたら、それで工作を続けることはできるし、また別れさせることもできるかもしれん。けど、その子が実家に帰るの、2回目だから。もうこうなってくると、依頼者さん側の問題だ」
「うまく工作できても、成功じゃないこともあるんすね」
「いや、現段階では成功だって、楓からは聞いてるけど。まあ、でも、依頼者の協力がないと、成功しないこともあるよ。これはウチと、依頼者さんとのあいだの約束だから。やるな、って言うことをやっちゃうと、まあ、こっちがどれだけ必死に動いても、うまくいかないこともある。人間関係だからね、依頼する前より関係が悪化する可能性だってあるわけだから。それはちゃんと、伝えないと」
楓さんなので、それはおそらく抜かりはない、というなんとなしの空気がある。
「なるほど」と私は言った。
なるほど、と言ったはいいが、それはあまり実感を伴っていなかった。要するに、佐賀さんがうまくやってくれるよう、願っているだけという状況はすごく座りが悪いのである。

「まあ、なるようにしかならんよ。ベストは尽くした、工作も成功した、伝えることは伝えた。あとは願うだけ。悪い状況じゃない」と持田さんは笑った。
「切り替えて、やれる別の仕事をしたまえよ」
私はこくりとうなづいた。
「もうひとつ、ちなみになんですが」
「なんだ?」
「もうすぐ彼女の誕生日なんですが、なにがいいっすかね?」
「うるせえ、黙れ。切り替えすぎだ」
もちろん、場を和ませるための私の高等テクニックなのであるが、誕生日プレゼントを迷っているのは事実であったので、答えをまったく期待していなかった、と言えば嘘になる。

*

午後、楓さんが別件の担当から戻ってきた。
「大橋、佐賀さんの件、決着したよ」と開口一番である。
「どうだったんです?」と私は訊いた。
くいとベランダを指す。
「まずは一服」
私と楓さんは連れ立ってベランダに出ると、タバコに火をつけた。
そして、楓さんは言った。
「うまく、いったよ」
主人がすごく、我慢しているのがわかって面白かったの、と佐賀夫人は語ったそうである。
むろん、うまくいったからこその笑い話だ。これで<束縛ムスメ>さんとの関係が悪化していたら、目も当てられない。
「でも、言いたいこと我慢して、娘の話をこくりこくりと聞いて、帰ってきて大丈夫だと、それだけ伝えたんだって」
「佐賀夫妻はどうでした?」
「奥さんちょっと電話で涙声だったよ。大橋くんにもありがとうございました、って伝えてくださいだって」
……ふむ。
これは、悪くない。
なにか、こう、悪くない。
悪くない以外にことばが思いつかないのは、きっと私の語彙が脆弱であるという理由ではなく、私が照れ屋であるからに、きっとちがいない。
「よかったです。ただ、ちょっと気になるんですけど、<束縛ムスメ>さんは別れちゃってよかったんですかね?」
「うん、いいんじゃない? ご両親が<束縛ムスメ>さんのこと思ってるのは本当なんだし、事実、彼氏もきっかけあれば浮気しちゃうんだし。いい、きっかけだけだからね。うまくいったのは、ご両親が<束縛ムスメ>さんと向き合ったから。オーケー?」
このきっかけは、社長のよく言うセリフ集の最初の方にある。我々にできるのは、きっかけを作ることだけだ、あとは依頼者さんの心持ち次第だ、と。
私はこくり、とうなづく。
「よろしい。このあとぱーっと飲みにでも連れてってあげたいんだけど、私これからもう仕事1件あるから、持田さんか社長にでも連れて行ってもらって」と楓さんはにっこりと笑った。
なるほど、笑顔とはいいものである。

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