私は、2件の依頼を持田さんと担当していた。
1件はやることが明確に見え、なんとかできる算段がついているが、もう1件はなんとかできることはないか、と探っている状況だ。
「別れさせ」とひとくちに言っても、千差万別であるのは、これまでの依頼者からも充分に理解できることではあろうが、しかし、これだけ毛色のちがう2件を同時に担当することは、率直に言えば負担もある。
いや、負担というよりも、違和感が半端ではない。
両手に見た目はまったく同じソフトクリームを持っているが、じつは片方は白わさびのカタマリである、と言ったようなものだとたとえれば、すこしは私の気持ちもわかってもらえるだろうか。いや、そのたとえは余計にわかりづらくなるだけである、という辛辣な表現は私が傷つく。
さて、まず私はソフトクリームっぽいソフトクリームについて話そうと思う。いや、我ながら、じつにわかりやすい表現である。要するに比較的マイルドな案件である、ということだ。
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「ラミエル」について、まず私は説明せねばならないのである。なぜか。
横目で確認した車の中に、立派なラミエルが鎮座しているからである。
その美しい青色の正八面体の姿は見るもののこころを踊らせる。変形などしてしまった日には、もう思わず映画館で、うおおおおお、と叫びそうになったのは遠い日の思い出であるが、それは私の趣味の話であるので、誰にどうこう言われる筋合いはない。だから、私の趣味については放っておいてもらおう。
そもそも「ラミエル」について説明責任がある風を装ってしまったが、無論私にその説明責任はない。
我々飯田橋探偵事務所の任務は、依頼者の依頼を達成することであり、その精神は依頼者のためにのみ発揮されるべきであり、その行動は依頼者のためを思っていなければならない。
したがって、いかにエヴァンゲリオンの第5使徒(新劇場版においては第6使徒)のフィギュアが車内にあったとしても、なおかつその作りが見事であったとしても、私の任務はその車が対象のものであると確認することであり、そこに食いつくのは私の仕事ではない。
ただし、あえて言おう。このラミエルは見事なラミエルである。
その美しい正八面体もさることながら、青い鏡面にしか見えぬその仕上がりも見事のひとことである。これは手製であろうか。だとすれば、対象者ではあるがなかなか見事である、<ラミエル・ボーイ>氏。
さて、話を戻そう。
いや、私としては、このままラミエルについて、あるいはシャムシエルについて、もしくはアルミサエルについて、いや、イスラフェルも捨てがたい。ただし、ガギエルとサンダルフォンは不許可だ、などと熱く3時間程度語り合ったとしても一向に構わないのであるが、私の仕事は別れさせ屋、探偵であり、決してアニメ評論家ではない。
従って、私はこれから依頼者の久木桂花さんと、<ラミエル・ボーイ>氏のことについて、話す。
