別れさせ屋アクアグローバルサポートは料金とご契約期間と実働回数を明確にした独自のプランで、依頼者様のご期待に結果でお応えいたします

9話 強気なアラフォーと桜色仙台城【終】 | 別れさせ屋の老舗アクアグローバルサポート

9話 強気なアラフォーと桜色仙台城【終】

2023-03-10

「依頼自体は、もちろん成功だ」と持田さんが言った。「結局、本命の彼女の動きを見計らって、仙台に来たときにうまいこと鉢合わせさせた」
本命と、<桜色仙台城>が会うその日、たまたま、偶然、思い立って駅に行った岬京子と、<桜色仙台城>氏、そしてその本命の彼女は鉢合わせることになった。むろん、本命の動きも、<桜色仙台城>氏の動きも完璧にとらえていたから、あとは確率の問題だった。うまく行かなければ、次回、それもダメならその次、と無理さえしなければ、確率があることはいつか起こる。双方の動きを把握している場合はその確率が跳ね上がるだけだ。
「ちょうど、本命を<桜色仙台城>が待ってるあいだに、岬京子を立ち会わせた。そこまで来れば、あとは本命が来るまで粘るだけ。そう難しいことじゃない」
「焦ったでしょうね、<桜色仙台城>さん」
「まあ、そうだろうな。ただ、岬京子曰く、途中からはある程度諦めてたらしいよ」と持田さんは言った。
「で、本命はあっさりそこを目撃して、あとはもう修羅場だな」
ねえ、その女誰よ、がリアル勃発するわけである。想像しただけでも恐ろしい。
「結局、その本命とは、どうなったんです?」
「まあ、別れるよな。余罪の話になって、室田さんの件もそこで出たらしいし」
「え、じゃあ、それ、京子さんいる前で話された、ってことですか?」
「そうだよ。じゃないとわからないじゃん。3人で、あの俺とおまえが入ったショボい喫茶店で修羅場したらしい」
もう、なんというか、私がもし工作していたら、2秒で逃げたくなる状況である。
「京子さんはもちろん……」
「そりゃ、もう仕事終わったからね。別れさせは成功したわけ。そしたらもう関わらないでしょ」
むろん、それは至極真っ当である。仕事は終わったので帰ります。正論にしか聞こえない。
「こうまでして、室田さん、幸せになれるんですかね?」
「わからんよ、そりゃ。まあ、でも、こうまでして掴みたかった、ということだけは事実だな。他人がとやかく言うことじゃない。それに見方によっては、二股ヤローが本命に振られてひとりで落ち込むより、ずっとマシだという説もある。そもそも<桜色仙台城>はそれくらいのことしてたわけだし、<桜色仙台城>のダメージ相当少なくてすむだろ。室田さんがいるんだからな。まあ、そのための二股なんだろうがな」
夕方近くのなんとも言えないむっとした空気が、私と持田さんをなんとも言えない感じで包んだ。もはや、この世はじつに多くのなんとも言えないで構成されているのではないかと、錯覚するようななんとも言えなさであった。
「室田さん、どうでした?」と私はなんとも言えないと思いながら言った。
「まあ、すっきりしてたよ、声は。もちろん、実際に会ってみんとわからん部分もある」
「<桜色仙台城>氏とは?」
「来週、楽天巨人戦のチケットが2枚取れたらしい。内野Sだってさ」
「ぼくは神宮の外野席くらいしか行けないですけどね」と私は述べた。
神宮の外野席は安い。それに勝る美徳はたぶん、ない。これは言い切れる。やはり、言い切れる事象の方が、簡潔でいい。
「外野席でビールいいよな」と持田さんは言って、ふと思いついた。
「おまえ、今日はその資料手直して終わりか?」
「はい、明日からこの資料の件で本格的に動き出しますけどね」
ふむ、と持田さんは携帯を取り出し、電話をかける。
「あ、もしもし、お疲れ様です。持田です。今日、何時頃帰社されます? あ、そうですか。ちょうどよかった。いや、野球行きましょう。神宮でビールが飲みたくなりました。ちょうど、室田さんの件も終わったんで」
そのあと、数回やり取りをして、持田さんは電話を切った。
「ということで、それまでに仕事を片付けろ」
「わかりました」と私は答えた。
その3時間後、私と社長と持田さんは、神宮の外野スタンドで並んでビールを飲んでいた。

*

これが、私が飯田橋駅前探偵事務所に来て、初めて関わった依頼の顛末である。
さして私はなにもしていないのではないか、という疑問は受け入れるが、しかしその疑問も、このあとの私の威風堂々、八面六臂、獅子奮迅のスーパープレイの数々を知れば、あっさりと消え失せることであろう。
ただ、いまはその仔細を語っているだけの時間がない。非常に残念である。私の多忙さが悔やまれる。じつにもったいない。だから決して、まだそんな大活躍の機会がない、とかそういうことではない。断じてない。

桜色仙台城編 完

エピソード2 第1話土曜のバベルへ続く

ご相談はこちらまでお気軽に!

お気軽にお問い合わせ下さい。


LINE相談

メールフォーム

~この記事の著者~

MORITA

CATEGORY
上に戻る